猫とはぐれる前に、マイクロチップ登録と連絡先を整えておく

この記事の目次
  1. 避難袋に入れたのは、紙と写真と番号
  2. 呼べば来る、を当てにしない
  3. 一年に一度、袋を開ける日に見る

マイクロチップの登録は、書類ではなく防災用具として扱う。登録先が災害時にかけられる番号になっているかを確かめ、被災地の外にいる人を第二連絡先にし、登録証明書のコピーとチップ番号のメモ、猫の写真を避難袋に入れる。首輪には外から読める身元表示を付ける。ここまでそろって初めて、はぐれた猫は番号で照合され、飼い主の元へ戻る道がつながる。

避難袋の中身を床に広げたのは、梅雨が明けたばかりの夜だった。猫は畳の上で、リュックの肩ひもを前足で抱えて寝ていた。非常用のごはん、水、折りたたみのトイレシート、タオル、いつも使っているブラシ。並べ終えて、最後に残ったのが、カードほどの硬さの紙だった。マイクロチップの登録証明書。引っ越しのときに住所変更をして、それきり見てもいなかった。

最初に指でなぞったのは番号の欄だった。書いてあったのは家の固定電話。猫を迎える前から使っている番号で、変える理由も思いつかないまま何年も過ぎていた。

その紙を持ったまま、順番に想像した。夜に地震が来て、家族は家にいない。猫はケージに入れられて、どこかの窓口に運ばれる。係の人が読み取り機を当てて番号を照合し、登録されている番号にかける。呼び出し音は、停電した部屋で鳴っている。誰も出ない。

固定電話が生きているかどうかは、被害の大きさにも、線の状態にもよる。停電しても通話できる場合があることは知っている。ただ、その番号に自分が出られる保証はどこにもない。出かけていれば出られないし、部屋ごと使えなくなれば呼び出し音すら届かない。登録を携帯に変えたのは、その日のうちだった。手続きは登録先の窓口かオンラインで、変更の届け出を出す形になる。証明書をなくしたときの再発行も同じ窓口で相談できる。

同時に、第二連絡先を入れた。被災地の外に住む家族の番号だ。窓口の人が最初にかけた番号に出ないとき、次にどこへかけるかが決まっているかどうかで、猫の扱われ方は変わる。自分が動けない場面を想定すると、これは自分のためというより、猫を預かる人のための番号だ。

災害時のペットの備えは、同行避難が前提になっている。猫と一緒に避難する。それは、猫が必ず自分の手元にいるという意味ではない。移動の途中でケージが開くこともあるし、預けなければならない事情もある。一緒に避難したうえで、別々になる。そのときのために登録がある。

避難袋に入れたのは、紙と写真と番号

袋の中身は、登録証明書のコピー、チップ番号を書いたメモ、猫の写真二枚。写真は顔がはっきり写ったものと、横向きの全身。うちの子は黒に近いので、暗い場所で撮った写真だと、ケージの中ではどの子にも見える。明るいところで、尻尾の先まで入るように撮り直した。スマホの写真は電池が切れれば見られないので、同じものを一枚だけ印刷して、証明書のコピーと同じジッパー袋にまとめた。袋の表にはマスキングテープでチップ番号を書いて貼った。開けなくても読めるように。

ついでに、ワクチンの接種済み証のコピーも同じ袋に入れた。受け入れの条件は避難先によって違うが、窓口で飼い主であることの確認と、接種状況を聞かれることはある。そのとき、紙が一枚あるだけで話が早い。

呼べば来る、を当てにしない

うちの猫は完全室内飼いで、首輪をしたことがなかった。付けた初日、壁の角でカサカサ鳴るたびに、後ろ足で立って前足で首をかく。三日で外した。それでも必要だと思うようになったのは、保護された猫の話を聞いたからだ。ケージの奥に丸くなって、名前を呼んでも出てこない。声を出さない。だから、呼んで返事を待つ作戦は、その場では使えない。

使えるのは、外から読める文字のほうになる。首輪に小さなタグを付けて、名前と、登録した携帯の番号を入れた。力がかかると外れる構造のものを選んで、家にいるときだけ短い時間つけて慣らすところから始めた。慣れない子にいきなり付けると、自分で外してどこかに落とす。落とした首輪は、いちばん必要になる場面で役に立たない。

チップそのものは、読み取り機がなければ読めない。窓口すべてに必ずあるとも限らない。だから、番号は紙に、身元は首輪に、姿は写真に、と分けて持たせている。ひとつに頼らない。

一年に一度、袋を開ける日に見る

引っ越し、電話番号の変更、そして猫が亡くなったとき。どれも届け出が要る。うちは避難袋を年に一度、梅雨の前に開けると決めていて、そのときにこの小袋も出す。紙を見て、番号が今の携帯かどうかを確かめ、写真を撮り直すかどうか決める。五分で終わる。

はぐれた猫が戻るかどうかは、保護した人が「この番号にかければ飼い主が出る」と信じられるかで決まる。こちらの気持ちではなく、相手の手元の情報で決まる。だから整えるべきは、書類の見た目ではなく、電話がつながる状態のほうだ。

縁側の猫係

著者について

縁側の猫係

幼い頃から猫と共に暮らしてきた人たちの著者名義です。畳や縁側のある暮らしのなかで、日々の食事、毛づくろい、トイレ、季節の備えを重ねてきた経験をまとめています。

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