日本の家庭用洗剤は、ラベルに何を書くかが法律で決まっている。だからボトルを手に取ったら、まず界面活性剤の種類と含有量を探す。それが、ラベルの中で唯一、商品をまたいで数字で比べられる項目である。香料や着色料、保存料は区分名でしか載らないので、そこから中身の化合物までは分からない。読み方の順番を先に決めておけば、棚の前で迷う時間はかなり短くなる。

私は台所のシンクに立って、ぬれた手でボトルの裏を見るとき、まずボトルを少し傾けて蛍光灯の角度を変える。水滴がラベルに回り込むと、細かい文字が一気に読めなくなるからだ。界面活性剤の行は、たいてい成分欄の上のほうにある。パーセントが付いた行を指でなぞって、それから下の「その他の成分」に目を落とす。この順番を決めてから、売り場でボトルを持っている時間が半分くらいになった。読む量は減っていないのに、迷う量が減った、という感じに近い。
法律が決めているのは「並べ方」であって「安全かどうか」ではない
洗剤は家庭用品品質表示法の対象で、品名、用途、液性、成分、正味量、表示責任者、使用上の注意といった項目を表示することが求められている。成分欄では、界面活性剤について種類名と含有量(%)を書き、それ以外の成分は用途の名前で含有量の多い順に書く、という形が基本になっている。
ここを取り違えると、あとが全部ずれる。この法律は、消費者が商品を並べて比べられるようにするための決まりだ。猫にとって安全かどうかを保証する表示ではない。実際、使用上の注意欄には子どもや手肌のことが書かれていても、猫のことは書かれていない。猫のための表示義務は、この法律にはない。
つまりラベルは、安全のお墨付きではなく、読むための書式だ。書式を知っている人だけが、短い時間で同じ判断にたどり着ける。
界面活性剤の行を先に読む
界面活性剤の「種類名」は、石けん系(脂肪酸ナトリウム)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、といった書き方で並ぶ。ここで分かるのは、どの系統かという大きな括りと、パーセントの二つだけだ。個々の化合物名が全部並ぶわけではない。
それでも、この%は使える。棚を眺めていると、台所用の中性洗剤は十数%から三十%台まで、住まい用はさらに幅がある。私が見ているのは「洗浄力の強さ」ではなく、「残ったときにどれくらい残るか」の目安としての数字だ。同じ三十%でも系統が違えば手触りも違うので、数字だけで決まるものでもない。
「その他の成分」は化合物名ではなく区分名で書かれる
その他の成分は、香料、着色料、保存料(防腐剤と書くこともある)、pH調整剤、安定化剤、水、といった用途の名前で並ぶ。並び順は含有量の多い順だ。だから「香料」が二行目にあるボトルと、最後のほうにあるボトルでは、においの量が違う。ここは数字がなくても読める情報になる。
そして、ここが私がいちばん時間をかけて納得したところなのだけど、「香料」としか書かれていない以上、その中に何が入っているかをラベルから知る方法はない。保存料も同じだ。書いていないのではなく、区分としてしか書かないと決まっている。この「決まっている」という言い方ができるかどうかで、ラベルを見る目つきが変わる。
無香料は、不明なものを一つ減らす操作
猫がいる家で私が最初にやったのは、香料を外すことだった。理由は「香料が危ないから」ではない。区分名でしか書かれないものを、こちらが中身まで確かめる手段を持たないからだ。分からない要素を一つ減らす、という使い方をしている。
ただし、無香料は無臭ではない。界面活性剤そのものにも原料のにおいはあるし、無香料でも他の添加物は入っている。ここを混同すると、無香料が安全の印に見えてしまう。私にとっては印ではなく、フィルタだ。
「天然由来」「無添加」「ペットにやさしい」は規格ではない
これらの言葉には、この種の商品について共通の定義がない。成分の中身を保証する言葉ではなく、使う側の印象に働きかける言葉だ。「天然由来」は原料がどこから来たかの話であって、濃さの話でも、すすぐ必要があるかどうかの話でもない。石けん系の界面活性剤は天然の油脂から作られることが多いが、アルカリ性で手に負担がかかるという別の性質を持つ。「無添加」は、何を添加していないのかが書かれていないことが多い。
だから私は、これらを見つけたら、いったん成分欄に戻る。戻る先がある、というのがこの読み方の強みで、言葉の印象だけで決めるより速く、そして後から振り返っても理由が残る。
すすぐ場所か、残る場所か
成分が問題になるかどうかは、濃度と、すすぐかどうかで変わる。食器のように流水で流す場所では、落ちる力と、最後にどれだけ流せるかが大事になる。逆に、床やキッチンの拭き掃除のように薄く残る場所では、界面活性剤の%が低いほうが扱いやすい。同じ一本でも、置かれる場所が変われば評価は変わる。
猫がいる家では、その経路をもう少し細かく想像する。床を歩いた肉球、毛づくろい、餌台のまわり、洗った食器。すすぐ場所と残る場所を分けて考える、というのが、私が実際にやっていることだ。ここを分けずに「猫にやさしい」という言葉のほうから入っていくと、判断の軸が言葉に移ってしまう。
手に取ってから棚に戻すまでの順番
- 成分欄をさがす。パーセントの付いた行が目印になる。たいてい成分欄の上のほうだ。
- 界面活性剤の種類と含有量を読む。系統と数字の二つだけを拾う。
- その他の成分を上から順に読む。上にあるほど多く入っている。
- 香料の有無を見る。中身が分からないものを減らしたいなら、ここが最初の分岐点になる。
- 天然由来などの言葉は判断材料から外し、成分欄に戻る。
- どこで使うかを思い出す。すすぐ場所か、残る場所か。
- 分からないものは分からないままにする。「香料」としか書いていない以上、中身は分からない。推測で埋めない。
最後の七番目が、実は一番効く。ラベルを読み慣れていない人がいちばん引っかかるのは、たぶんここで、書いていないことを大丈夫ということに読み替えてしまうところだと思う。
今でも棚の前でボトルを裏返す。ラベルの文字は小さくて、ぬれると読みにくい。それでも順番が決まっていれば、五秒か十秒で棚に戻すかどうかが決まる。猫がいる家での洗剤の判断は、当てる作業ではなく、分からないものを数える作業に近い。少なくとも私にとっては、そのほうがずっと続けやすい。