長毛猫の毛玉予防でいちばん効くのは、良い道具を選ぶことではなく、毎日同じ順番で全身を梳き、下毛がまだ「毛玉」になる前の小さなもつれのうちに取り除いてしまうことです。とくに後ろ耳の付け根、前脚の内側、おなか、しっぽの付け根の4か所は、下毛が集まりやすく皮膚が動く場所で、ここを一日飛ばすだけで翌朝には指先に引っかかる小さな塊ができています。だから毎日触る場所の順番を決めて、後ろ耳から始めて前脚の内側、おなか、しっぽの付け根、最後に背中としっぽの先へ、と毎日同じ道を通ります。

うちの猫がこの順番を受け入れるまでには、半年ほどかかりました。最初は背中から梳き始めて、途中で後ろ耳に手を伸ばした瞬間に逃げられていました。猫にとってつらいのは、梳かれることそのものより「次にどこを触られるかわからない」ことなのだと思います。毎回同じ場所から同じ方向へ進むようにしてから、後ろ耳で少し身をすくめても、前脚の内側まで来るころには前足をだらんと預けてくれるようになりました。
最初に入れるのは、歯の広いコーム
最初に使うのは、歯の間が広いコームです。これは毛をきれいに梳くというより、絡み合った上毛と下毛の層を分けるためのものだと考えています。いきなり歯の細かいコームを入れると、表面の毛が引っ張られて、下に隠れていたもつれをかえって押し固めてしまうことがあります。太いコームで首からしっぽまで一通り流したら、いったん手を止めて、指の腹で全身を撫でます。このときに引っかかる場所が、その日の要注意ポイントです。
細いコームは、その引っかかりがなかった場所にだけ当てます。梳き残した下毛を見つけるのには向いていますが、すでにもつれている場所に入れると、毛を引きちぎるだけになります。私は「細いコームはごほうび」くらいに考えていて、もつれのない背中やしっぽの先に短く使う程度です。
後ろ耳の付け根から始める
後ろ耳の付け根は、首輪や後ろ足が当たるうえに毛が細く、下毛がたまりやすい場所です。ここは毎日いちばん最初に触ります。耳の付け根に沿ってコームを寝かせ、毛の流れに逆らわないように入れると、毛の間を抜けていく音が変わります。指先に米粒ほどの硬さが触れたら、それが毛玉の始まりです。この段階なら、コームの先で毛をほぐすように何度か往復させるだけで、たいていはほどけます。
それでも引っ張ってはいけません。毛玉を無理に左右へ引き離すと、皮膚が一緒に持ち上がって猫は痛みで鳴きます。皮膚のすぐそばで板のように固まっているもの、触るだけで怒るものは、もう私の手に負えない範囲だと決めています。
前脚の内側こそ、いちばん短く
前脚の内側、脇の下は、猫がもっとも嫌がる場所のひとつです。うちの猫も、ここにコームを入れると必ず前足を蹴り上げます。だからといって飛ばすと、歩くたびに前脚と胸がこすれる場所なので、小さなもつれが数日で大きな塊になります。
私のやり方は、前脚を無理に持ち上げず、猫が座っている姿勢のまま、前脚の付け根の皮膚をそっと横へずらして、コームを短く何度も入れる方法です。一度に長く梳かず、三回入れて一回休む、を繰り返します。休むときは手を止めて、首の下をかいてあげます。これを毎日続けていると、猫のほうも「ここはすぐ終わる場所」と学習して、蹴る回数が減ってきました。
おなかは左右に分けて、しっぽは3つに区切る
おなかは皮膚が薄く、内臓の上なので、猫が警戒するのも当然です。仰向けにさせる必要はありません。猫が立っているか横向きに寝ているときに、床とおなかの隙間にコームを差し込むようにして、毛の流れに沿って梳きます。ここも一日で全部やろうとせず、左側と右側を一日おきに分けるくらいの気持ちでかまいません。ただし、同じ場所をもつれさせたままにすると座るときに痛がるので、見つけた日はその日のうちに、無理のない範囲でほぐしておきます。
しっぽの付け根は、皮脂が出やすく毛が密集しているので、毛玉というより脂で毛が束になって固まりやすい場所です。付け根から先へ向かって、コームを小刻みに動かします。先まで一気に通そうとすると猫はしっぽを振って逃げるので、付け根、真ん中、先、と三つに区切って進めます。
引っ張らない、切らない
毛玉を左右に引っ張って二つに割ろうとするのは、いちばんやってはいけないことです。皮膚が一緒に持ち上がり、毛包を傷めることがあります。皮膚に近いところで固まっている毛玉、触ると猫が怒る毛玉は、私の手の届く範囲を超えています。かかりつけの動物病院か、猫を扱えるトリマーに相談してください。
はさみやバリカンで切り取ることも避けています。猫の皮膚は薄く、たるんでいるので、毛玉の下の皮膚まで一緒に切ってしまう事故が起きます。自分でなんとかしようとして、いちばん後悔するのはこのパターンです。
毎日同じ道を通ると、体の変化が見える
同じ順番で毎日梳いていると、コームの通り方で猫の体の変化がわかるようになります。いつもより毛が多く抜ける、皮膚が赤い、触ると嫌がる場所ができた、というのは、いちばん近くで見ている人が最初に気づくサインです。とくに、それまでおとなしく梳かれていた猫が急に毛づくろいをやめたり、毎日梳いているのにもつれが増えたりするときは、皮膚や関節、内臓のどこかに不快感が隠れていることがあります。毛玉の問題に見えて、体の問題であることがあるので、様子が続くようなら動物病院で診てもらってください。
毛玉予防は、きれいに見せるための作業ではありません。毎日同じ道を通って、猫の体を頭からしっぽまで一度確認する、という健康チェックの習慣です。順番を決めて、短く終わらせて、引っ張らない。この三つを守るだけで、長毛猫との毎日はずっと楽になります。