トイレのしつけ直しが進まないときに最初に変えるのは、猫のほうではなく、こちらが残す記録です。回数、尿と便の見た目、食欲、飲水量、体重という五つを毎日同じ形で書き残しておくと、「最近なんとなく多い気がする」が「三日続けて、一回の量が小さいまま五回」に変わり、動物病院へ相談するかどうかの線引きがはっきりしてきます。そして、回数や様子が普段と違う状態が続くとき、尿が一日出ていない記録が並んだとき、隠れる・食べない・吐くが重なったときは、自宅でのしつけ直しを続けるのではなく、動物病院に電話して相談する。ここが、記録から受診を考える大きな区切りになります。
夜の十一時。リビングの隅で、私はトイレの前にしゃがんでいます。あなたもすぐ横にいるつもりで読んでください。猫が砂をジャリジャリと踏む音。スコップですくい上げたあと、余分な砂が落ちていく乾いた音。尿のかたまりをスコップの上でそっと崩したときの、少し重い手ごたえ。私はその手ごたえを、そのままノートの一行に置き換えます。「22:50 尿 小さめ 少なめ」。
最初の一週間は、失敗のたびに「なぜ」を書いていました。なぜソファだったのか、なぜトイレに行かなかったのか。三日でページは推測で埋まり、読み返しても何もつながらない。そこで、書く内容を数えたものと見たものだけに絞りました。
記録帳に残すのは、数えたものと見たものだけ
うちのノートは、左端に時刻、その右に排泄、その右に食事と水、いちばん右に一言、という四列です。項目を並べると次のようになります。
- 日付と時刻
- トイレに入った回数と、実際に排泄できた回数
- 尿のかたまりのおよその大きさ(小さい、普通、大きい、の三段階で十分)
- 便の形と硬さ
- 失敗した場所
- いつもの量を食べたか
- 飲水量のだいたい
- 体重(週に一度)
「痛そう」と書くより、「踏ん張って十秒、途中で鳴いた」と書く。「元気がない」より、「朝ごはんを残し、昼はこたつの下から出てこなかった」。書き換えるだけで、あとで読み返したときに目に入るものが変わります。記録帳は診断の場所ではなく、変化を言葉にするための場所です。
回数と量、どちらを先に見るか
ノートを読み返すとき、私が最初に見るのは尿の欄です。尿が一日出ていない、という記録が並んだら、その日のうちに動物病院へ電話して相談します。一回の量が小さいまま何度もトイレに入る、という記録が続くときも同じです。ここは、自宅でしつけ直しの続きを考える場面ではありません。回数が増えたのか減ったのか、それとも一回ごとが小さくなったのか。この三つは似ているようで、記録の読み方が変わります。
尿と便の見た目、そして声
尿に血が混じる。排泄のときに鳴く。長く踏ん張る。陰部をしきりに舐める。これらはノートに書いたうえで、しつけ直しの続きではなく、動物病院へ伝える内容になります。見た目は写真を一枚撮っておくと、電話で説明するときに言葉に詰まりません。便のほうも、硬さと色を一言で残しておくと、あとで並べて比べられます。
隠れる・食べない・吐くが重なったとき
トイレの変化に加えて、こたつの下から出てこない、ごはんを残す、吐いた。この三つが同じ日に重なったら、記録の整理を待たずに動物病院へ電話します。ノートはその電話のためにあるので、揃っていなくても構いません。
失敗した場所は、環境の地図になる
ソファの同じ角、洗面所のマットの上、脱衣所の洗濯物。同じ場所に続くなら、トイレの位置、砂の種類、容器の広さ、置き場所の音、ほかの猫との関係といった環境側を見直す材料になります。逆に、場所がばらつき、尿の間隔も量もばらつくなら、環境の調整だけを続けずに、動物病院へ相談する側に倒します。失敗の記録は、しつけの失敗の記録ではなく、判断の材料です。
体重と体つきは、家で測れる数少ない数字
抱っこして体重計に乗る。週に一度、朝ごはんの前。肋骨に手を当てたときの感触も一行添えておきます。大事なのは数字そのものより、二週間、三週間の向きです。測る条件を揃えておかないと、食前と食後だけで百グラム以上動いてしまうので、うちは必ず同じ時間帯に測っています。
相談するときは、ノートを読み上げるだけでいい
「三日前から、尿が小さいのが五回」「昨日は一回だけ」「便は普通」「食欲は七割」「体重は先週と同じ」。この順で伝えれば十分です。フードや水の量、サプリを自分で変えて調整するのは、記録が台無しになるのでやめています。変えるなら、動物病院の指示を聞いてからにしています。
続かないときは、項目を減らす
全部を毎日つけようとして三日で止まる、というのはよくあります。私も最初はそうでした。最低限は、日付、回数、尿、便、食べたかどうか。体重は週に一度で十分です。項目を減らしても、同じ形式で続いていれば、あとから並べて比べられます。
記録は、しつけ直しの道具であると同時に、猫の様子を動物病院へ渡すための翻訳でもあります。猫は痛みを言葉にしないので、こちらが時刻と数字で代弁する。しつけ直しが止まったと感じたとき、最初に開くべきは新しい砂の見本ではなく、書きかけのノートです。