猫の歯みがきは1日10秒で足りるか。条件つきで、足ります。ここでいう10秒は「磨き切るための時間」ではなく、「歯の外側に毎日触れるための最小単位」です。1回を長くするより、同じ時間帯に同じ場所で短く続けるほうが、猫にかかる負担も、飼い主が迷う時間も小さくなります。左右を1日で終わらせる必要はありません。今日は右だけ、左は明日。それで成立します。

私はこの10秒を、歯みがきというより「口を触られる時間」として組み立てています。磨くというより、触れて、嫌がられなかったらまた明日も触る。その繰り返しのなかで、長さのほうは猫が決めていきます。
私が数えている10秒の中身
夜の10時を少し回ったころ、私はリビングのクッションの横に座ります。テレビは消して、照明はひとつだけ。膝の上に猫をのせ、左手で顎の下を支え、親指で口角をそっと持ち上げる。ここまでで、だいたい3秒。
右手に持った歯みがきを、上の犬歯の外側に当てて、小刻みに動かします。私が数えている10秒は、この片側ぶん。猫は何も数えていません。10秒たったら口を離して、頭の後ろを一度かく。それで終わりです。
うちの猫がこの10秒を受け入れるまで、それなりにかかりました。最初のころは3秒で舌に押し返され、前足が私の手首に乗ってきました。その日はそこで終了。翌日も同じ場所、同じ順番で始める。それを何週間か繰り返したあたりで、ふと、押し返されない日が出てきました。
だから、10秒という数字は目標ではなく上限です。今日の猫が許す長さが3秒なら、その日は3秒でいい。
左右そろえようとすると、たいてい失敗する
いちばん多い失敗は、左右を同じ日に終わらせようとすることだと思っています。右が終わって、さあ左、と口の反対側に手を回した瞬間に、猫の首がすっと横を向く。あの動きを見て「今日はもう無理だ」と切り上げられるかどうかで、翌日の入りやすさが変わります。
私は、右ができた日は右だけで終わります。左は翌日。翌日も右しかできなければ、また右。それでも、口の中に毎日触れているという事実は変わりません。片側だけの日が続いても、私の場合は「今日はできなかった」とは数えません。「今日は右の日だった」と数えます。
内側の面まで毛先を回そうとした日は、うちでは必ず失敗しました。舌が動く場所なので、猫にとっては理不尽なのだと思います。今の私は外側だけをやっています。それが十分かどうかは私が決めることではなく、続けながらかかりつけの獣医師に聞いていることです。
長さを延ばすのは、猫が緩んだ日だけ
10秒が当たり前になってきたら、少しだけ延ばします。ただし条件があります。猫が膝から降りようとしていないこと、耳が後ろに倒れていないこと、しっぽの先が動いていないこと。この3つがそろっている日だけ、15秒にしてみる。
翌日また10秒に戻ってもかまいません。私はカレンダーにその日の秒数を書いています。「15」と書いた次の日が「7」でも、それは失敗ではなく、その日の猫の状態です。
延ばすときにやってしまいがちなのは、調子のいい日に一気に30秒やること。翌週、猫がクッションを見ただけで逃げるようになります。実際にやりました。伸ばすのは1回あたり数秒ずつで十分です。
始まりの合図を決めておく
猫は、歯みがきそのものより「始まる直前」を嫌がることがあります。だから始まりの合図を毎回同じにします。私の場合は、クッションを床に置く、テレビを消す、同じ声で「はい」と一度だけ言う。この3つです。
言葉の意味を猫が理解しているとは思っていません。ただ、この並びが毎回同じだと、身構える時間が短くなります。逆に合図がばらばらだと、抱き上げられた瞬間に抵抗が始まります。
合図を決めるときに気をつけているのは、合図そのものが嫌な記憶にならないようにすることです。うちでは一時期、クッションを床に置く音だけで猫が逃げるようになりました。だから今は、猫のほうから膝に乗ってきたときにだけ始めます。乗ってこない日は、その日はやりません。
食後と、遊びのあとを狙う
タイミングは、猫が緩む瞬間を借ります。わかりやすいのは、食事のあとと、じゃらしで遊び終えたあと。うちの猫は、遊び終えて水を飲み、床にべったり座り込む数分間がいちばん抵抗しません。毛づくろいを始める直前の、ぼんやりした時間です。
逆に、空腹のときに口を触ると、ほぼ確実に嫌がります。食べる前の猫は、口のまわりに何かが来ることを歓迎しません。同じ10秒でも、タイミングで受け取り方が変わります。
毎日できない週の落としどころ
仕事が立て込んで、帰宅が深夜になる週があります。そういう週に毎日を目標にすると、三日目に挫折して、そのまま2週間空く。これがいちばんよくないと感じています。
そういうときは、隔日に落とします。減らすのは頻度で、時間帯は変えません。22時、クッションの横、同じ合図。間隔が空いても、始まりの手順が同じなら、猫の身構えは戻りにくい。
隔日にすると決めたら、次の診察のときに「うちは隔日です」と正直に伝えます。できていないことを隠して診察台で口を開かせるより、普段の頻度をそのまま言ったほうが話が具体的になります。どのくらいの頻度がその猫にとって現実的かは、家での様子を知っている人が判断するしかありません。私が言えるのは、続けられる形の作り方までです。
記録は、やった日にだけ印をつける
手帳の端に、その日の秒数を書いています。「10」「10」「7」「10」という並びが1か月ぶん並ぶ。やらなかった日は空欄のままにします。埋めるためにやるのではなく、口の中の様子が変わったときに、前はどうだったかを見返すために書いています。
10秒で足りるかどうかは、正直なところ、その猫が10秒を受け入れるかどうかで決まります。受け入れない日が続くなら、0秒の日があっていい。0秒が1週間続いたら、頻度を落とすか、やり方を変えるか、獣医師に相談する。その順番で考えています。