口を触らせない猫に、まず触る場所から変える段階的な慣らし方

この記事の目次
  1. 触る順番は、口から遠いほうから
  2. 触れたら「いち、に」で離す
  3. 進める単位は「日」で、セッションの回数ではない
  4. 頭を押さえない
  5. 触れないままでも、できるケアはある

口を触らせない猫への慣らしは、口を開ける練習から始めない。その猫がすでに触られて平気な場所——あごの下、鼻先の横、頬の外側——に指先を一秒だけ置いて離すところから始め、数日単位で少しずつ口の周りへ近づけ、歯ブラシは最後に出す。猫が嫌がっているのは「口」そのものより、口へ向かってくる手の速さと、いつ終わるかわからない時間のほうであることが多い。

口を触らせない猫に、まず触る場所から変える段階的な慣らし方

夜、食器を洗い終えたあとのソファで、私は自分の猫のあごの下に人差し指の腹をそっと置く。数えるのは「いち、に」まで。それで離す。テレビはつけたままで、声は出さない。猫はまばたきを一回して、そのまま座っている。手を離してから三秒待つと、たいていは自分で顎を上げ直す。その動きが見えたら、その日はもう終わりにする。

これを始める前、私はずっと逆の順番でやっていた。口元に手を伸ばし、上唇を持ち上げ、歯が見えた瞬間に「よし」と思い、翌日また同じことをする。三日目には、私がソファに座っただけで猫が床に降りた。手が来る前に、猫はもう学習していた。「口の近くに手が来る=嫌なことが続く」という形で。

それからは、触る場所と順番を先に決めるようにした。順番を決めておくと、その日の猫の反応が「いつもと違う」のかどうかを比べられる。

触る順番は、口から遠いほうから

最初はあごの下。次に頬の外側、耳の付け根の少し下。ここまでは多くの猫がもともと許してくれている場所で、新しいことを覚えさせるというより、手の存在そのものに慣れてもらう段階になる。

指は人差し指の腹だけ。爪は立てない。触れる面積は小さく、圧はほとんどかけない。置いた瞬間に少しだけ指を止めて、離す。この段階でやらないのは、口を開けること、唇をめくること、歯を見ること。まだ早い。

手を出す前に、匂いを嗅がせる

触る前に、拳を軽く握って鼻先から十センチほど離して出す。猫が自分から寄ってきて嗅ぐまで待つ。嗅ぎ終わって顔をそらしたら、その日は触らないほうがいい。嗅ぐ前に手を伸ばすと、それだけで「来た」という合図になり、猫は身構えてしまう。

触れたら「いち、に」で離す

一回の接触は数秒以内。私は「いち、に」と心の中で数えて、に、で離す。声に出すなら低い声で短く「よし」と一言だけ。語尾を上げない。上げると、猫によっては遊びの誘いとして伝わって、落ち着きが途切れる。

大事なのは、離すタイミングを猫に決めさせないこと。顔をそらす、耳が後ろに倒れる、尾の先が一度はじける、触っている間だけ嚥下が止まる——そういう変化が出てからやめるのでは遅い。変化の手前でやめる。これができるようになると、翌日の反応がまるで変わる。

進める単位は「日」で、セッションの回数ではない

同じ日に何度も繰り返して慣らす、というやり方はしない。猫は「回数」では慣れず、「日」で慣れる。同じ場所を三日から五日続けて、どの日も引かなかったら、次の場所にひとつ進む。あごの下が五日安定したら頬の外側。頬が安定したら口角の外側二、三ミリ。そこが安定したら、上唇の端に指を置くだけ。ここまでで数週間かかるのが普通で、数ヶ月かかる猫もいる。

一日に一回、多くても二回。そして「もう少しできそう」のところで終える。調子がいい日に欲を出して続けると、たいてい翌日に反動が来る。

引かれたら、一つ前に戻って一週間

耳が後ろに倒れた、手を払った、シャーッと息を吐いた、低く鳴いた、噛もうとした。そのどれかが出たら、その日はもう触らない。そして翌日から一週間は、一つ前の場所に戻す。戻るのは失敗ではない。猫にとっては「この手は無理をさせない」という情報を積み直す期間になる。

踏ん張って同じ場所を続けると、数日で「手が来ると嫌なことがある」に戻ってしまう。私の場合、口角に進んだ翌日に払われて、そこからあごの下に二週間戻した。遠回りに見えて、そのあとの進みはむしろ速かった。

頭を押さえない

慣らしの最中に、首の後ろをつかんで固定したり、頭を腕で抱え込んだりはしない。押さえればその数秒は静かになるが、猫が学ぶのは「逃げられない」という感覚のほうになる。次に手が近づいたときの反応は、必ず強くなる。

手を添えるのは、猫が自分から動かないときだけ。それも指一本、一秒まで。

触れないままでも、できるケアはある

数ヶ月続けても口の周りを触らせない猫はいる。それで終わりではない。あごの下や背中を触らせてくれるなら、そこから食べ方や体の状態を観察できる。よだれの量、口のにおい、片側だけで噛んでいないか。気になる変化があれば、口を触れないことを前提に動物病院で相談する。全身麻酔の下で口の中を見てもらう、という選択肢もある。

慣らしは家でできる範囲を広げるためのもので、「これができないとケアが成り立たない」というものでもない。触れる場所が一つ増えれば、それだけで観察できる情報は増える。

うちの猫は、いまは口角の外側まで触らせてくれる。歯ブラシはまだ出していない。急ぐ理由がない、というのが今の感触で、それでいいと思っている。

縁側の猫係

著者について

縁側の猫係

幼い頃から猫と共に暮らしてきた人たちの著者名義です。畳や縁側のある暮らしのなかで、日々の食事、毛づくろい、トイレ、季節の備えを重ねてきた経験をまとめています。

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