歯ブラシを嫌がる猫にガーゼで足りるのか、獣医に聞く前に知る

この記事の目次
  1. 布が届く場所と、届かない場所
  2. 落ちるもの、落ちないもの
  3. 摩擦を減らす
  4. やめる線を先に決めておく
  5. 獣医に切り替える合図
  6. それでも、ガーゼを続ける意味

「歯ブラシを嫌がる猫に、ガーゼで足りますか」。この問いへの答えは、何を落としたいかで分かれる。歯の表面についた、まだやわらかい歯垢を減らしたいだけなら、指に巻いたガーゼでも届く範囲はある。けれど歯と歯茎の境目の細い溝と、数日で固まってしまった歯石には、布は物理的に入っていかない。口臭がする、歯茎が赤い、食べにくそうにしている、という状態がすでにあるなら、それはガーゼの巻き方を工夫する段階ではなく、口の中を獣医に診てもらう段階だ。

歯ブラシを嫌がる猫にガーゼで足りるのか、獣医に聞く前に知る

夜、洗面所の灯りをつけて、ガーゼを一枚、人差し指に巻く。二枚重ねにすると厚みが出て口角から入りにくくなるので、私はいつも一枚。水道水を含ませて、軽く絞る。びしょびしょだと猫がいやがるし、乾いていると歯に引っかかる。

猫は洗濯機の上に座っている。膝に乗せてもいいし、乗せなくてもいい。抱え込むと、その日の一回がそこで終わる。片手で下あごをそっと支えて、親指で下唇を少しだけ下げる。唇の内側に指を入れて、下の犬歯の外側、奥歯の外側、と滑らせる。三回。上も同じく三回。合わせて十秒あるかないかだ。

この十秒で見ているのは、歯だけではない。耳が後ろに倒れていないか。しっぽが床を叩いていないか。飲み込む回数が増えていないか。前足が私の手首に乗ってきたら、押し返そうとしている合図なので、そこで終わりにする。最後まで拭き切るより、明日も同じ姿勢で座ってくれるほうがいい。

布が届く場所と、届かない場所

指の腹は平らで、猫の歯は小さくて丸い。だから指を滑らせると、歯のいちばん高いところ、噛み合う面と外側のふくらみは拭ける。口角を少し横に引けば、頬の内側に隠れた奥歯の外側にもなんとか届く。

届かないのは、歯と歯茎の境目の溝だ。歯の根元に沿って細くへこんでいて、歯ブラシの毛先はここに沿ってしなるように入っていく。指に巻いた布は面で押すだけなので、溝の上をふたをするように通り過ぎていく。同じ掃除でも、動きの質が違う。毛先が入るかどうかは、拭き方の工夫では埋まらない差だと思っている。うまくやる方法を探すより、入れない場所があるという前提で使うほうが気が楽だ。

落ちるもの、落ちないもの

ガーゼで落ちるのは、歯の表面についた、まだやわらかい歯垢だ。白っぽくてねばっとしていて、薄く張りついている段階のもの。これは布でぬぐえば、そのぶん減る。

落ちないのは、固まったもの。歯垢は数日のうちに硬くなって、歯の根元に黄ばんだり白く盛り上がったりして残る。爪で引っかいて取れるようなものではなく、布でこすっても表面がつるりとするだけ。これが歯石で、家で拭いて取れるものではない。取るには獣医での処置が要る。

ここを混同すると、毎日拭いているのに口臭が消えない、という状態になる。消えないのは、やっていないからではなく、拭いても届かない場所でことが進んでいるからだ。

だから最初に決めておくといい。やわらかい歯垢を減らしたいのか。口の中を毎日見る習慣を作りたいのか。それとも口臭や腫れをどうにかしたいのか。この三つは必要な対応が違う。三つめだけは、家にある道具では扱えない。

摩擦を減らす

乾いたガーゼをそのまま歯に当てると、引っかかる。猫が「いやだ」と思う理由の多くは、この引っかかりだと思っている。水で濡らすだけで、かなり変わる。

口の中に使えると表示されたペット用の液体を含ませる、という選び方もある。ただ、人の歯磨き粉は使わない。泡立つ、味がついている、飲み込む量を想定していない。猫の口には合わないし、磨いたあとにすすぐという工程も猫にはできない。

やめる線を先に決めておく

拭き始める前に、どこでやめるかを決めておく。私の場合は、耳が倒れた、しっぽが動いた、前足が来た、飲み込んだ、の四つ。一つでも出たら終わり。

回数を決めるのも効く。片側二、三回で切り上げる。全部の歯をきれいにしようとすると、たいてい最後のほうで猫が飽きる。最初の数秒はおとなしくしていても、後半で急にいやがる、というのがよくある流れで、そこで無理をすると、翌日から洗面所に来ただけで逃げるようになる。一日分の汚れより、続けられる関係のほうが大きい。

獣医に切り替える合図

次のどれかがあるなら、拭き方を工夫するより先に、口の中を診てもらったほうがいい。

  • 口臭が強い、においが以前と違う
  • 歯茎が赤い、触れると嫌がる、血がにじむ
  • 片側だけで噛んでいる、フードをこぼす、硬いものを避ける
  • よだれが増えた、口の周りを触られるのを急に嫌がる
  • 食べているのに体重が減っている

歯石がついている、歯茎に炎症がある、歯が欠けている。そういうことが背景にあるかもしれない、という状態だ。何が起きているかは、口の中を見て、必要なら画像を撮らないと分からない。ガーゼを当てて確かめられる範囲ではない。

それでも、ガーゼを続ける意味

ガーゼは歯を治す道具ではない。届く範囲の歯垢を減らすことと、口の中を毎日見る窓を作ること。できるのはこの二つだ。

同じ角度から毎日見ていると、歯茎の色、歯の根元の盛り上がり、におい、よだれの量、噛み方の癖が、なんとなく分かってくる。先週と違う、という感覚は、たいてい検査の数値より先に来る。その違和感を持って獣医に行けることが、たぶんいちばん大きい。

ブラシに移れる猫は、途中で移ればいい。口角に指を入れることに慣れた猫なら、毛先の細いブラシを一本足すだけで受け入れることがある。移れない猫もいる。それでも毎日十秒、口の中を見る。方法より、同じ時間に同じ手順で続くことのほうが、あとから効いてくる。

縁側の猫係

著者について

縁側の猫係

幼い頃から猫と共に暮らしてきた人たちの著者名義です。畳や縁側のある暮らしのなかで、日々の食事、毛づくろい、トイレ、季節の備えを重ねてきた経験をまとめています。

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