冬、暖房をつけたまま締め切った部屋で猫と暮らすなら、最初に動かすのは猫のケアではなく部屋のほうだ。日本の居室は暖房を入れた状態で相対湿度が40%をはっきり下回ることがあり、そこで起きる乾燥は、被毛の表面、その下の皮膚、鼻と目の粘膜、肉球、そして一日に飲む水の量という別々の場所に同時に現れる。だから順番は決まっていて、部屋、猫そのもの、最後に人の手の触れ方になる。湿度は40〜60%を目安に置き、加湿の運転は、すでにある毎日の動作にくっつける形にすると切れにくい。

私が最初に気づいたのは、猫ではなくドアノブだった。リビングを出るときにパチッとくる。数日後、ソファで丸くなっている猫の背中を撫でたとき、毛が指のほうへふわっと立った。うちではいつもこの順番で冬が来る。ドアノブ、猫の毛、それから湿度計。だから湿度計を見るのは最後で、数字より先に手のほうが教えてくれる。
乾燥は「一つの症状」ではなく部屋の状態
暖房をつけると、空気そのものが乾いていなくても相対湿度は下がる。同じ水分量でも、空気が温まるほど「その温度でどれだけの水分を含めるか」に対する割合が小さくなるからだ。だから「ストーブをつけたら肌が乾いた」は別々の出来事ではなく、同時に起きている。猫の乾燥も同じで、被毛がぱさつく、鼻の先がざらつく、肉球が乾く、水を飲む量が減る、というのは、全部この一つの状態から出てくる。
締め切ったままの暖房で、湿度計が40%を切ることは冬には珍しくない。私の部屋では、朝いちばん、まだ窓を開ける前が一番低く出る。この40%という線は、静電気と被毛表面の乾きが目立ち始めるあたりでもある。だから「乾いたな」と感じたときには、もう対象は猫の体のあちこちに散っている。
湿度計をどこに置くか
これで何度も失敗した。加湿器の吹き出し口のそばに湿度計を置くと、そこだけの数字を見て安心してしまう。うちでは、猫が一日で一番長く丸くなっている場所、キャットタワーの中段と同じ高さに置いている。床から数十センチのところで、加湿の風が直接当たらず、窓からも離れた位置。窓際は外の冷気の影響で低く出るので、窓のそばの数字で一喜一憂しても仕方がない。
猫が寝る部屋と、日中に人がいる部屋が違うなら、夜の部屋を後回しにしないこと。猫は移動するので、リビングだけ整えても、寝室が乾いたままなら同じことになる。
換気は短く、何度も
冬でも換気は必要で、問題になるのは「開けるかどうか」ではなく「開け方」だ。窓を長時間開け放すと室温が落ちて、そのあと暖房を強めることになる。うちでは、全開にして数分、を一日に何度か。換気の直後に湿度計が少し戻るのは、壁や布団にしみ込んでいた水分が戻ってくるためだと思っている。数字が戻るのを待って、それでも下がっているなら加湿の量が足りていない。
60%を超えると、今度は窓の結露とカビのほうが気になってくる。上げればいいというものでもない。毎朝結露がつくようなら少し下げる。その往復でちょうどいい。
猫の側で見ていること
部屋を整えたうえで、猫そのものを見る。ここは、どこで起きているかで分けて見たほうが早い。被毛と皮膚、目と鼻、飲水量とトイレ、肉球。それぞれに、うちの猫の平年がある。
被毛と皮膚は、撫でたときの手触りと、フケの量と、毛づくろいの回数。静電気で毛が逆立つのは分かりやすいが、それより先に、毛づくろいが増えて毛玉が増えることがある。夏のうちに一度、毛艶とフケの具合を写真に残しておくと、冬の変化が判断しやすい。
目と鼻は、鼻の先のざらつき、目やにの量、瞬きの回数。乾燥した部屋で過ごしていれば多少は出る。ここで大事なのは、部屋を整えても続くのかどうかだ。湿度を戻した状態で、それでも続いているなら、部屋ではなく猫の体の話になる。
飲水量とトイレが、私が一番気にしている場所だ。猫はもともと喉の渇きを感じにくい動物で、冬に飲む量が減っても「喉が渇いた」という形では出てこない。代わりに先に出るのがトイレで、尿の塊が小さくなる、数が減る、という形で見える。毎日トイレを掃除していれば、塊の数と大きさは自然に記録になる。私のところでは、夏と冬で塊の数が大きく変わらないことを一つの目安にしている。水の皿は、猫の動線の途中にもう一つ増やすだけで飲む回数が変わることがある。
肉球は、触ったときの感触で分かる。ざらつく、かさつく、床で滑る、トイレの砂がくっつきやすくなる。ここも、赤くなっている、痛がる、舐め続けるなら部屋の問題ではない。肉球の手入れそのものより、空気を戻すほうが先に効く。
手の触れ方と、それでも続くとき
静電気は、人が触る瞬間に起きる。湿度が低いままだと、撫でるたびに猫がびっくりして距離を取るようになる。これが一番困る。手を先に木の壁や手すりに触れてから猫に触る、手を少し湿らせてから触る、というのは、部屋の湿度が戻るまでのつなぎとして使っている。手の工夫だけで乾いた部屋を埋め合わせることはできない。順番としては最後に来る。
そして、食欲、飲水量、トイレの様子が一緒に変わっているなら、部屋をこれ以上いじるより先に動物病院に連絡したほうがいい。乾燥した部屋が体調に影響することはあるが、それを家で見分けたり治療したりできるものではない。部屋を整えても続く、猫がつらそうにしている、というときは受診の合図だと考えている。
冬の乾燥対策は、加湿の機械を置いて終わりではない。朝カーテンを開けたら湿度計を見る、夜に暖房を消すときにお風呂の扉を開ける、トイレ掃除のついでに塊の数を見る、ブラッシングのついでに皮膚と肉球を確認する。そういう既にある動きに、一つずつくっつけていく。新しい習慣を増やすより、そのほうが冬を越せる。