冬に猫を撫でたときのバチッは、猫の毛の問題ではなく、触る前にあなたの体にたまった電気の問題だ。だから変えるのは猫ではなく順番になる。まず自分を放電し、それから近づき、最後に触る。この三つの順番を先に決めておくだけで、猫が飛びのく回数は目に見えて減っていく。

私がこれを身にしみて分かったのは、夜に部屋が乾ききった日のことだった。猫が膝の上に乗ってきて、ごろごろと喉を鳴らしている。かわいくて、つい手を伸ばす。指先が背中に触れた瞬間、パチッ、と小さな音がして、指の腹に痛みが走った。音は本当に小さかった。でも猫は耳を伏せ、尻尾をふくらませて、膝から飛び降りてしまった。
あのあと、猫はしばらく私の手を見るようになった。手が近づくだけで体を引く。撫でられること自体は嫌いなはずなのに、手そのものが「嫌なもの」に分類されてしまったのだ。静電気というのは、そういう形で関係を壊しにくる。痛いのは一瞬でも、記憶は残る。
悪いのは毛並みではなく、触る側
最初は私も、猫の毛のせいだと思っていた。冬になって被毛が乾いて、そこに電気がたまるのだと。だから毛を整える方向ばかり考えていた。でも、実際に起きていることを順番に追っていくと、答えは逆だった。
静電気が起きるのは、乾いた空気の中で電気が逃げ場を失い、物の表面にたまり続けるからだ。空気が乾いているほど、たまった電気は行き場をなくす。目安として、部屋の湿度が40%を下回るあたりから、バチッは急に起こりやすくなる。冬の暖房を入れた部屋は、知らないうちにこの線を軽く越えていることが多い。
そして、もう一つ。放電には二つの異なる素材がこすれ合う必要がある。これはつまり、猫の毛だけが犯人ではないということだ。私が着ているフリース、脱ぐときに髪が逆立つあのニット、床を歩くたびに足元でこすれる合成繊維のスリッパ。それらが冬のあいだ、私の体に電気をせっせとため込んでいる。猫に触るころには、私はもう帯電した状態で部屋を歩き回っている。
考えてみれば当たり前で、猫はただ座っていただけだ。私が歩き、こすれ、ためた電気を、猫の背中を通して逃がしていた。犯人を探すなら、鏡を見たほうが早い。
触る前の三秒を決める
だから私がやめたのは、「猫に触ってから驚く」ことではなく、「触る前の準備をしないで触る」ことだった。順番を固定した。
まず、猫に手を伸ばす前に、自分を放電する。壁でも、金属のドアノブでも、テーブルの脚でもいい。大事なのは指先でそっと触れるのではなく、手のひら全体を平らに当てることだ。指先だけで触ると、電気は狭い一点に集中して、痛みがはっきり出る。手のひらという面で触れれば、同じ電気が広く散らばって、感覚はほとんど残らない。私はこれを、リビングの壁でやる癖をつけた。猫に近づく前に、無意識に壁に手を置く。それだけだ。
次に、猫のほうへゆっくり近づく。ここで焦って手を出すと、せっかく逃がした電気がまた戻ってくる。歩くときのスリッパと床のこすれで、少しずつまたたまるからだ。だから近づいたら、一度止まる。そして手を湿らせる。
湿らせる、といっても手を洗う必要はない。自分の手のひらに息をふっとかけるだけでもいいし、手を洗ったあとに完全に拭ききらず、わずかにしっとりした状態で触るのでもいい。軽く湿った手で背中をなぞると、毛の上を電気が滑っていきにくくなる。乾いた手で一気に撫で下ろすより、ずっと静かだ。
どうしても手が乾いているときは、タオルをほんの少しだけ湿らせて、それで猫の背中を一度だけ撫でる、というやり方もある。びしょびしょにする必要はない。「湿っているかどうか分からない」くらいがちょうどいい。猫は濡れた感触を嫌うので、そこは加減が要る。
部屋と自分の手、この二つが一番効く
いろいろ試した結果、効果が大きかったのは結局この二つだった。部屋の湿度を上げることと、自分の手を乾かしすぎないこと。どちらもお金がかからず、今日から試せる。
湿度のほうは、40%を下回らないようにする、という見方でいい。加湿しすぎれば窓が結露し、窓まわりのカビが気になり始める。ここは本当に綱引きで、快適な湿度と結露のあいだの、狭い帯を探すことになる。冬のあいだずっと50%を超えるように保つのが正解、というわけではない。
手のほうはもっと単純だ。乾燥で手の表面がカサカサにならないようにしておく。手が乾いていると、それだけで電気がたまりやすい。私は洗い物のあとに手を拭きすぎないようにしている。これだけで、猫に触ったときの感触が変わる。
猫が手を避けるようになったら
一度バチッが何度か続くと、猫は手そのものを避けるようになる。うちの猫がそうだった。手を出すと、撫でられる前に体を引く。これは反抗ではなく、学習だ。手が来る=痛い、という短い記憶が先に立っている。
これを戻すのに効いたのは、こちらの手を引くことだった。数日間、自分からは触らない。手を出しかけて、引く。猫が自分から寄ってきて、鼻先を手に当ててきたときだけ、ごく短く触れる。撫で続けない。一回で終える。
これを繰り返すと、猫の側の「手=危ない」という記憶が、少しずつ上書きされていく。こちらの都合で触りたい気持ちは分かるが、焦って撫で続けると逆戻りする。猫に主導権を渡したほうが、結果的に早く戻ってくる。
ゼロにはできない、という前提
最後に正直なことを書いておくと、冬の静電気を完全に消すことはできない。湿度を保ち、手を湿らせ、順番を守っても、乾いた日には小さくパチッとくることがある。目標はゼロではなく、回数を減らすことだ。週に何度もあったものが、月に一度になる。それだけでも、猫が手を避ける期間はぐっと短くなる。
そして、順番を変えるのは猫ではなく自分だ、というのがこの話の一番大事なところだ。猫の毛をどうにかしようとすると、猫は嫌がるし、効果も限られる。自分の服装、床、手、そして触る前の三秒を変えるほうが、ずっと簡単で、ずっと確実に効く。壁に手を置いてから、猫のほうへ向かう。それだけでいい。