猫が後ろ足の爪切りだけ嫌がるのは、機嫌でも相性でもなく、後ろ脚が「体を押し出し、体重を支える」ための脚だからです。後ろ足を後ろ向きに持ち上げて固定しようとすると、猫の体はその動きを押し返す力として使ってしまいます。前足と同じ手順を持ち込むほど抵抗は強くなります。変えるべき点は一つだけで、後ろ足を引き上げるのをやめ、横向きに寝ている姿勢のまま、下から支える形にすることです。

それに気づくまで、うちの猫には何度も手を振りほどかれた。前足は膝の上でも切らせていた。だから後ろ足も同じ流れでいけるはずだと思っていた。ところが後ろ足に手を伸ばした瞬間、脚がぐっと伸びて、手ごと体を押しのけられた。爪切りを持つ手より先に、猫の脚のほうが動いていた。当時は「後ろ足は嫌いなんだな」で終わらせていた。今思えば、嫌いかどうかの話ではなかった。
後ろ足が嫌がるのは、脚の力の向きが前足と逆だから
後ろ脚は、地面を蹴って体を前に進めるための脚だ。力が出る方向は後ろから前へ、まっすぐ。だから宙に持ち上げられると、その力の出し方がそのまま「押し返す」に使われる。暴れているというより、脚が設計どおりに仕事をしている。
もう一つ、支える脚でもある。後ろ足が一本浮くと、残りの三本でバランスを取り直そうとして体幹が動く。これが「じっとしていない」という見え方になる。
前足はどちらかといえば体を止めたり、物に掴まったりする脚で、持ち上げる方向も力の向きも違う。前足で通った手順は、後ろ足では前提からして噛み合わない。だから前足のときの感覚を思い出しながら後ろ足に手を伸ばすと、たいてい失敗する。
寝ている間なら、脚を一度も持ち上げずに済む
うちで落ち着いたのは、夕飯後、猫が床のマットの上で横向きに伸びている時間だった。ここが大事で、膝の上でも、テーブルの上でも、抱き上げた状態でもない。平らな、いつも寝ている面に体の側面が全部ついていること。この条件だけで、後ろ足を持ち上げて支える必要そのものが薄くなる。
まず体の正面に回らない。頭のほうから手を出さない。猫の背中の側、つまり体の後ろ側に、静かに回り込む。猫の視界に入るのは私の膝か、部屋の壁だけになる。
上になっているほうの後ろ足を切る。後ろ足には後ろ向きに突き出した関節がある。かかとにあたる部分で、座っているときに床につく、あの硬いところだ。その関節の下に、手のひらを上にして差し込む。指は閉じない。手のひら全体で脚の重さを受ける。持ち上げない。支えるだけ。
この形だと、関節より先は勝手にぶら下がって、足先の力が抜ける。掴んで引くと指が締まって爪が引っ込む。掴まないことが、爪を出すことにつながる。
暗い部屋で見えないまま切らない。夕方なら足元に小さな灯りを一つ足す。爪の先端と肉球の境目が見えるかどうかが、そのまま切るか切らないかの判断になる。
呼吸が深く、尾が動かず、ヒゲがだらりとしている。それが寝ている合図だ。耳だけがこちらを向いたら、手を止める。止めるだけで、引かない。引くと「手が来ると起きる」を教えてしまう。
横向きで見える爪と、見えない爪
上から見えるのは外側の三本。指の向き、先端がどこを向いているか、肉球からどれくらい離れているか。ここは明るければすぐ見える。
内側の一本だけ残る理由
残る一本が内側の爪だ。横向きの姿勢では、他の指と体側に挟まれて隠れる。だから後ろ足の爪を切ったつもりでも、内側だけ長いまま、ということが起きる。伸びる向きも内側に巻くようで、気づいたときには先端が肉球のほうを向いている、ということもある。
見るときは、脚をひねらない。手のひらは関節の下のまま、足先だけをわずかに傾ける。動かすのは足先で、脚の付け根ではない。爪を出したいときは、指の上の肉球をそっと押す。
先端が肉球に当たっている、あるいは食い込んでいるように見えるなら、そこで止める。家で深く切って外すのは危ない。その足は獣医に見せる。
反対側の後ろ足は、猫が寝返りを打つのを待つ。体を無理に返さない。片側だけ切って、翌日の昼寝でもう片方、で構わない。
一度に全部切らなくていい
後ろ足の爪は、前足ほど速く伸びない。前足を切った時期を基準にすると、後ろ足はまだ短いことが多い。だから今日一本で終わっても、数週間で困ることはほとんどない。見るのはカレンダーではなく、爪の先端と肉球の距離だ。
歩くときに爪が床に当たる音がする、先端の白い部分が長く出ている。そういう変化が出てからでも間に合う。
この方法が使えない猫もいる
いつも丸まって寝る猫、膝の上が定位置の猫、そもそも手足に触られるのが苦手な猫。この形は使えない。無理に伸ばそうとすると、寝ている時間そのものが警戒の時間になる。そういう場合は家でやることにこだわらず、動物病院かトリマーに頼ればいい。
年を取って寝ている時間が長い猫は、特に慎重に見る。抵抗が少ないのは、力が抜けているからとは限らない。
「嫌がる」の中身が変わったときは、爪切りの問題ではない
触ると脚を引っ込める、立ち上がり方が変わった、片方の後ろ足をかばう、同じ場所を舐め続ける、今までさせていたのに急に後ろ足だけ触らせなくなった。こうした変化は、切り方を工夫しても消えない。見ているのは爪ではなく、脚そのものの状態かもしれない。こちらで判断せず、獣医に相談する。
寝ている間に、一本。それで終われれば、それが一番いい。