シニア猫の爪切りは、立たせて足を引っぱり上げるやり方をやめるところから変わります。低くて暖かい場所にそのまま寝かせ、足先を下から手のひらで支え、見えている先端だけを1本ずつ切る。そして、わかっているつもりで一番抜けやすいのが、若い頃より短くしないという条件です。高齢になった爪は、滑る床の上で体を支える数少ない支点になっています。立たせない、寝かせたまま、切りすぎない。この三つが基本です。

冬の夜、コタツの横に座布団を敷いて、うちの猫を横向きに寝かせます。手のひらを後ろ足の下にそっと差し込んで、指では握りません。爪切りを持つ手は、猫の体の向こう側。この体勢に落ち着くまで、うちは二年かかりました。
最初に気づいたのは、爪そのものより音でした。フローリングを歩くときの「カチ、カチ」という軽い音が、いつのまにか「カリッ、カリッ」に変わっていた。爪の先が床に引っかかっている音です。抱き上げて立たせ、後ろ足を引っぱり上げて切ろうとしたら、残った三本の足がつるつる滑って、猫が全身で力を入れて暴れました。あの日から、立たせる方式はやめました。痛みの問題というより、支えを失う怖さの問題だったんだと思います。
立たせない理由は、関節より先に床が教えてくれた
立たせると、どうしても三本足で立つことになります。畳ならまだしも、フローリングやクッションフロアでは、その三本が踏ん張れない。踏ん張れないまま片足を持ち上げられると、猫は爪切りより先に「落ちる」と感じて抵抗します。だから音と体勢の話は、うちではセットでした。
体が硬くなって、自分で後ろ足を伸ばせなくなったのも、この頃です。足をこちらに向けて差し出してくる、ということがなくなった。だから、こちらから引っぱり出すしかない、という発想自体を捨てました。
爪は厚くなり、削られにくくなる
若い頃は、柱で研いだり、走り回ったりして、爪がある程度削れていました。今は寝ている時間が長く、研ぐ動作も浅くなって、削られる量が明らかに減りました。それなのに伸びる量は変わらないので、間隔は伸びるどころか縮みます。うちでは三週間に一度だった確認が、今は二週間に一度になりました。
爪の質も変わります。厚みが出て、先端が層になって薄く割れる。割れたところがカーペットや畳の縁に引っかかって、歩くたびに首をかしげる。後ろ足の爪は、内側に巻くようにカーブして、肉球の方へ近づいていきます。前足より、後ろ足の方が先に警告を出してきます。
準備は「低い・暖かい・明るい」
場所は低くします。テーブルの上や、高い台の上には上げません。座布団の上、膝の横、ベッドの端。バスタオルを一枚敷くと、滑り止めになって、爪の先がタオルに引っかかって少しだけ見やすくなります。冬なら、猫が自分から来る暖かい場所の方が、ずっと成功率が高い。
照明は明るくします。高齢になると爪が濁って、中の芯が見えにくくなります。リビングの照明だけだと影が落ちるので、私は手元だけを照らす小さなライトを横に置いています。爪切りは、いつも使っているものを変えません。新しい道具は、それだけで警戒の対象になります。
下から支えて、見えている先だけを切る
手順は、基本的にこれだけです。
まず、猫の向きは変えません。仰向けにはしません。寝ている向きのまま、手が届く足から始めます。次に、切る足の下に手のひらを敷きます。上から掴まない、引っぱらない。これが下から支えるという意味です。
肉球を押して爪を出そうとするのは、硬くなった足では逆効果でした。押し返されて、猫が足を引っ込めます。だから、押し出さずに、すでに見えている先端だけを切ります。透明な部分より先、白い部分のほんの先っぽ。それだけで十分です。
一本切ったら、いったん手を離します。離しても引っ込めなければ、次の一本。引っ込めたら、その日は終わりです。後ろ足は特に、一本ごとに間を空けます。うちは前足二本、休憩、後ろ足一本、で終わる日も普通にあります。
眠っている間に一本ずつ、という選択
起きていると手を引っ込める子でも、深く眠っているときは体が緩みます。爪も自然に出ていることが多い。私は、眠りが深いときを見計らって、一日一本だけ切ります。四本切れれば御の字、一本で終わっても、翌日また一本。三日から四日で一周すればいい、という数え方に変えてから、お互いに楽になりました。
大事なのは、起こさないことです。目が開いたら、その時点でやめます。眠りから引きずり出して切った爪一本は、翌日の警戒心と引き換えになります。
短く切りすぎない
ここが、若い頃の感覚のままだと一番危ないところです。高齢猫の爪は、床をつかむための支点になっています。フローリングの継ぎ目、畳の縁、階段の手前。引っかかる場所があるから歩ける、という場面が増えているんです。
短く切ると、その支点がなくなります。滑る。滑ると、猫は歩く距離を減らします。歩かなくなると、足の運びも、体の使い方も変わっていきます。爪切りは、歩くことを守る作業でもあるわけです。
芯の手前で止めるのが原則ですが、高齢猫は芯が太くなって、白い爪でも先の方まで伸びていることがあります。透けているから大丈夫、とは限りません。迷ったら、切らない。これも選択です。
家では切らずに、見てもらう形にするもの
爪が肉球に当たっている、内側に巻いている。層で割れて、取れそうになっている。先端がもろくて、切ったそばから崩れる。こういう状態は、家で短くして解決しようとすると、だいたい悪い方に転びます。普段の通院のときに、足先も一緒に見てもらう。そのために「後ろ足の爪が巻いてきた」とメモして持っていきます。
記録は「どこを切ったか」だけ
カレンダーに、日付と、前足か後ろ足か、左か右か。それだけ書きます。高齢猫の爪切りは、一度に全部やらないので、次にどこを切るのかを覚えていられません。記録があると、迷わなくなります。迷わないと、猫も落ち着きます。
今朝も、後ろ足の左を一本だけ切りました。目は開きませんでした。それでいい、というのが今のうちのやり方です。