春の抜け毛を軽くするのは、掃除のうまさではなく順番です。まずブラッシングで毛を上流で受け止める。次に高い場所から低い場所へ、乾いた状態のまま進める。そのあとに布製品、最後に空気と湿度。この四つを一続きの流れとして固定し、春のあいだは週ごとに担当のゾーンを回していく。それだけで、毎日起きている小さな惨事が、季節に一度の作業に変わります。

日曜の朝、窓を開けるところから私の春は始まります。網戸の内側にそっと手を当てると、指の腹に細かい毛が集まってくる。カーテンを開けた瞬間、低い角度の光が床に帯を落とし、そこで初めて、昨日かけたはずのフローリングに薄い膜のように毛が戻っているのが見える。この光景を毎年4月に見て、私は毎年、少し嫌になっていました。
変わったのは、道具ではありません。順番です。
毛は上から来る。だから掃除も上流から下流へ
床の毛を見てから動き出すと、たいてい後悔します。掃除機をかけて、拭いて、満足して座った五分後に、棚のあたりからふわっと降りてきた毛が、さっききれいにした床にまた積もる。毛は上から来るのに、私は下から迎え撃っていた。順番が逆だったんです。
だから今は、春のあいだだけ、作業の順番を決め打ちにしています。最初は床ではなく猫。ブラッシングを後回しにすると、その日の掃除はだいたい倍になります。逆に、最初の十分をブラッシングに使うだけで、床に落ちる前にかなりの量の毛を受け取れます。私がブラシを当てるのは、首の後ろから背中、腰、そして尻尾の付け根。ここをゆっくり往復すると、音もなく毛の層がめくれて、ブラシの間に灰色の綿のようなものが溜まっていく。これが、床に散らばる前に確保できた毛です。うちの猫は途中で必ず一度寝返りを打って、もう片側を差し出すので、私はそれを合図に裏側へ移ります。嫌がる日はそこで終わりにします。無理に続けると、翌日はブラシを見ただけで逃げられる。春を通して考えると、そのほうが損です。
そのあとに高い場所。棚、テレビ台、窓の桟、キャットタワーの段を、乾いた布でさっと払う。ここで落ちた毛は床に落ちるので、まだ掃除機はかけません。上から下へ、一方向に進むだけです。
床は最後です。そして床を拭くのは、この流れのいちばん最後。濡れた雑巾で先に拭くと、細くて軽い毛が繊維に張り付いて、かえって取りにくくなります。乾いた状態で絡め取ってから、必要なら最後に一度だけ濡らして仕上げる。布製品も同じで、先に湿らせた時点で毛が刺さります。
春のピークは、カレンダーではなく光で決まる
「4月になったら換毛期」と決めつけていると、準備のタイミングを外します。抜け毛が増えるきっかけは、日が長くなることと、部屋が暖かくなること。だから同じ日本でも南と北では山の時期がずれますし、同じ家でも日当たりのいい部屋とそうでない部屋で、猫の体の反応は変わります。
私はカレンダーではなく、二つのものを見ています。一つは、朝にカーテンを開けたときに床へ落ちる光の角度。もう一つは、背中を撫でたときに手に残る毛の量。この二つが同時に動き始めた週を、うちでは勝手に「春の始まり」と呼んで、そこから計画を回し始めます。地域や家によって時期が違うので、誰かの正解をそのまま持ってきても合いません。
室内で暮らす猫は、外に出入りする猫に比べて一年を通して少しずつ抜けます。それでも春はアンダーコートが入れ替わるので、明らかに山ができる。そして山の頂上を過ぎたあたりから、抜ける量はゆっくり減っていきます。だから春はずっと同じ強度で戦う必要はなく、最初の数週間を厚めに、後半を薄めに配分すれば足ります。
一日で全部やらない。週に一つのゾーン
春の盛りに家中を一日で片づけようとすると、だいたい夕方には疲れて、翌週は何もしなくなります。私は最初の年、それをやりました。二日目に何もやらなかっただけで家中が元通りになっているのを見て、かなり嫌になったのを覚えています。
今は、家を四つか五つのゾーンに分けて、週に一つだけ担当を決めます。猫がよくいる場所、寝室と寝具、窓とカーテン、玄関と廊下、といった具合です。それぞれのゾーンで、高い場所、低い場所、布、空気、という同じ順番を一回転させる。順番が同じなので迷いません。猫のブラッシングだけは毎日ですが、それも「今日のゾーン」の中でやる作業の一つだと決めておくと、続きます。
一つのゾーンにかけるのは、だいたい三十分から一時間。それで週の残りは普段どおりでいい。むしろ「今日はここだけ」と決めておくと、他の部屋の毛が見えても気にしないで済みます。春のあいだは全部が同時にきれいな瞬間は来ない、と先に認めてしまうほうが、結果的に家はきれいに保たれます。
床と布は、同じやり方では取れない
フローリングの毛は、表面に乗っているだけなので、乾いたもので軽く集めれば取れます。厄介なのは布です。ソファカバー、カーテン、シーツ、猫のベッド。細い毛が繊維の間に入り込んで、表面を撫でただけでは動きません。
ここは床とは別のリズムを作ります。カバー類は、外して乾いた状態のまま、繊維の流れに逆らう方向でブラシをかける。張り付いていた毛が浮いてきます。粘着タイプのシートは、広い面よりも、縫い目や角など毛が溜まりやすい場所に使うほうが効きます。全部を一度にやろうとすると疲れるので、私は洗濯のついで、と決めています。洗濯機に入れる前の一手間は、洗濯槽の中に毛を増やさないという意味でも効きます。
カーテンだけは別格で、春に一度、まとめて外して乾いた状態で払う日にしています。これを部屋の中でやると、せっかく取った毛がまた床に落ちるので、私はベランダか、フローリングの部屋でやります。
最後に残るのは、空気の中の毛
掃除が終わった直後の部屋は、いちばんきれいに見えます。問題は、その三十分後に、棚の上やテレビの画面に、もう薄く積もり始めていることです。掃除のときに舞い上がった毛は、しばらく空気の中に漂って、そして必ず落ちてきます。
だから私は、最後に空気を動かして換気をします。窓を開けて部屋の空気を入れ替える。それだけで、落ちてくる毛の総量は確実に減ります。湿度も関係します。乾燥している時期は静電気で毛が舞いやすく、壁や布に吸い付く。加湿の目安は人の心地よさと同じで、40〜60%あたり。猫の体調管理の話としてもよく挙げられる範囲なので、大きく外さなければ十分です。
ここは正直、完璧にはなりません。空気中の毛をゼロにする方法はなく、できるのは落ちてくる速度を遅くすることだけです。だから私は、掃除の直後に少し積もることを失敗だと思わないようにしています。次のゾーンの週に、また同じ順番で回せばいい。
掃除で解決していい毛と、そうでない毛
ここだけははっきり書いておきます。春に増える抜け毛は、掃除の問題です。でも、量が急に変わった、地肌が見えるほど部分的に抜けている、皮膚が赤い、舐め続けている、といった変化は掃除ではどうにもなりません。家の中でできることを増やしても、原因は部屋の外にあります。そういうときは、掃除計画をいくら作り込むより、動物病院に一度相談するほうが早いです。
私はこの切り分けを、春の計画の最初に置いています。「これは掃除の範囲」「これは違う」と線を引いておくと、余計な心配で疲れずに済みます。
春が終わるころには、順番は体に入っています。どの部屋から始めて、どこでブラシを置いて、どのタイミングで窓を開けるか、考えなくても動けるようになる。来年は、カーテンを開けて床の光を見たときに、去年ほど嫌な気持ちにならないはずです。少なくとも、私はそうなりました。